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みんなで笑って泣いた(?)3時間半
Takuma Club Meeting 2025/2026

■今年のテーマは“The First”
その日、南麻布にあるブリヂストン・グローバル研修センターは熱気で溢れていました。ステージに立っているのは佐藤琢磨クンとMCの川崎かおりさん。そしてふたりの傍らには、なにやらベールがかけられたフォーミュラカーらしきものが鎮座しているではありませんか。
「今年もインディ500に参戦します!」 そんな、ファンの皆さん待望のひとことで幕を開けた今年のTCMは“The First”がテーマ。これには挑戦への最初の一歩という意味が込められていたのですが、実は、琢磨クンがフォーミュラカーレースに挑む第一歩になった鈴鹿レーシングスクール・フォーミュラ(SRS-F)で用いていたマシンが先ごろ発掘され、そのレストアが完成したということで、今回はその姿がTCMのステージでお披露目されたのでした。
あ、申し遅れましたが、私、自動車ライターの大谷達也と申します。そう、いつもであればTCMにゲスト出演させていただいている者ですが、今回は都合により会場に駆けつけることができなかったため、ビデオで当日の模様を拝見しながらこのレポートを執筆しております。

さて、ステージ上で琢磨クンがSRS-Fの思い出を語ったところで、いよいよTCMのメインイベントであるダイジェスト映像シーズントークとして、2025年のインディ500を振り返ることになりました。今回も一般にオンエアされたレース映像だけでなく、本邦初公開の秘蔵映像を交えながらのトークを観客の皆さんは熱心に聞き入っている様子でした。
なかでも、琢磨クンが特に熱を込めて語ったのがハイブリッドシステムの使い方。インディカー・シリーズではドライバーがマニュアルでエネルギー回生、つまりメカニカルブレーキではなくモーターを発電機として用いて減速Gを得る一種の電気ブレーキの使用が可能になっていますが、琢磨クンは参戦ドライバーのなかで唯一、このエネルギー回生を予選中に使ってフロントロウを獲得したのです。
予選アタック中にエネルギー回生を行えば、減速時のエネルギーを電力に変換してバッテリーに蓄えられるため、その電力を加速時に用いることでスピードアップに結びつけることができます。この原理自体はどのドライバーも同じように活用できますが、問題は回生する時間がコーナーに飛び込む直前のたった0.6秒ほどと短いうえ、この間にドライバーがエネルギー回生量を微妙かつ正確にコントロールしない限りスピードを失うこととなり、この作戦は成功しません。むしろ、失敗する確率のほうがはるかに高いため、インディカー・シリーズにパワーユニットを供給するHRC US(ホンダ・レーシングUS)のエンジニアは、12人中11人までが琢磨クンの“エネルギー回生作戦”に反対したそうです。HRC USのCEOで、もともとはフェラーリやメルセデスベンツのF1エンジン開発責任者だったデイヴィド・サルターズもエンジニアたちと同じ見解で、リスクの大きさゆえに同意しなかったといいます。

ところが、周囲から反対されればされるほど闘志を燃やすのが琢磨クンの悪いクセ、いやチャレンジ精神の素晴らしいところで、そのわずかしか可能性がないエネルギー回生作戦に向けて必死にトライします。たとえば、作戦を成功させるにはパドルの微妙な操作が必要になるため、インディカーのステアリングを自宅に持ち帰り、ベッドの上で寝落ちするまで練習を続けたり、あるときはフィルミングのために1時間だけ使用が許されたHRC USのシミュレーターで6時間以上も練習するなかでエネルギー回生の技を習得。こうした訓練を経て、琢磨クンは予選でエネルギー回生作戦を成功させたのです。
その、わずかな可能性を求めて懸命に努力する姿は、琢磨クンが標榜する「No Attack No Chance」のスローガンそのままといえるでしょう。
この作戦を成功させて予選で2番グリッドを手に入れた琢磨クンが、決勝レースでも序盤にしてトップに立ち、その後もグイグイとレースをリードしていったことは皆さんもご存じのとおり。そして運命の分かれ道となった88周のピットストップでオーバーランを喫して後退し、最終的に11番手でチェッカーを受け、ライバルが失格になったことで9位フィニッシュに認定されたこともご存知ですよね。
それにしれも、改めて動画で見ると、オーバーランした距離ってたったの1mくらいだし、それを押し戻すにも大した時間がかかっていないように思えます。なのに、たったそれだけのことで、琢磨クンの歴史的な「インディ500の3勝目」が水泡に帰してしまったのですから、インディ500というレースがどれほど接近戦で、どれほど残酷な戦いであるかがわかるような気がします。
■初代シビックRSでモナコを疾走!
こうしてインディ500の振り返りは終了。通常であれば、ここから質問コーナー、プレゼント+握手会へと流れていくのですが、今回はその前に、琢磨クンの「ラリー・モンテカルト・ヒストリック参戦」に関するビデオが披露されました。

ホンダ学園の創立50周年記念チャレンジとして行われたラリー・モンテカルト・ヒストリック参戦に、琢磨クンがドライバーとして起用されたことは皆さんもご存じですよね。会場では、そのイベントの模様がダイジェスト映像として紹介されたのですが、琢磨クンの軽妙なトークもあって前半は爆笑の連続。ところが、琢磨クンが“おにぎり”にまつわるエピソードを披露したあたりから会場の雰囲気が次第に変わっていきます。
メンバー全員が当たり前のように食べていると思ったおにぎり、実は全員分は用意されていなくて、ドライバーの琢磨クンには優先的に提供されていたのです。これを聞いただけでも、ちょっとホロッとしちゃいますよね。
そんなチームを率いていたリーダーが飯塚はるなさん。彼女は、重圧がかかるこのリーダー役を自ら買って出たばかりか、琢磨クンを起用してハイスピードクラスの“Haute”への参戦を敢えて決定。さらに、琢磨クンがドライブする初代シビックRSのサンセット号が峠でゴロリと横転してしまったときも、クルマよりまずは琢磨クンの身を案じたほか、「絶対にサンセット号を完走させる!」という強い信念のもと、谷からクルマが引き上げられると雨がそぼ降る深夜の山奥という心細い状況だったにもかかわらずレッカー車のドライバーに「あとは自分たちで直しますから!」と宣言して先に帰させ、メンバーが待つモンテカルロまで走る応急措置を施して辛くもリタイアを逃れるという、まさに「No Attack No Chance !」を地で行くような勇敢で頼りになるリーダー振りを発揮したのです。

この話は、ニューズレターの第69号にも紹介されていて、それを読んだときには私も涙腺が緩んでしまいましたが、今回、琢磨クンの話を聞いていて思わず号泣してしまいました。シーンとした会場の雰囲気も、皆さんが私と同じ気持ちとなっていることを伝えているようでした。
これはあくまでも私の推測ですが、ホンダ学園から最初に声がかかったとき、琢磨クンは「自分がコンペティションの難しさを教えてあげよう!」という気持ちだったかもしれません。でも、実際に学生たちと一緒に戦って、彼らが琢磨クンに優るとも劣らないくらいの覚悟を抱き、努力を重ねる姿を見て、琢磨クン自身が逆にいろいろなことを学んだのではないでしょうか。そのくらい、ホンダ学園の方々の意識は高かったと思っています。
■質問コーナーに興味津々
続いてはお待ちかねの質問コーナー……のその前に、琢磨クンから2026年のレース活動報告がありました。まあ、内容的にはイベントの冒頭と同じで、インディ500に参戦するというものだったのですが、代表質問に立った松本浩明カメラマンが。まずは「今年の予選と決勝の目標は?」と訊ねると、「予選は、残る目標はポールポジションしかない」と回答したうえで、決勝についても「3勝目を目指す」と明言。これほど琢磨クンがインディ500優勝をはっきりと言葉にしたことは、これまでなかったように思います。それくらい、今年は条件が揃っているということなのでしょうね。

続いては会場からの質問。「インディ500のグリッドにふたつの日の丸が並ぶ可能性は?」と問われた琢磨クンは、「可能性はある」と即答。さらに「若手のチャンスをつぶしてまで自分がやるべきでないこともわかっている」としたうえで、「今年はメラメラと燃え上がる闘志がある。26年に本当に勝てば27年も出場できる」と宣言したのです。そして「僕が発表したのと同じ日にエリオ(カストロネヴェス)もインディ500に参戦すると発表した。51歳のエリオが出られるのだから、僕もあと2年は止めるわけにはいかない」と抱負を語ってくれました。
2問目は、TAKUMA KIDS KART CHALLENGEの卒業生で、最近、本格的なカートレースで優勝したばかりの中学生から「自分が進化していくにはレース前、レースウィーク、そしてレース中にどうすればいいか?」と問われると、琢磨クンは次のように答えたのです。
「勝ち続けるためには、勝つために何が必要で、勝てなかったときは何が足りなかったかを分析することが必要。その分析をもとにして、次の戦いの準備をする。なぜなら『たまたま負ける』ということは絶対になくて、負ける理由が必ずあるから。その理由を自分で分析して、さらに限界で戦い続けない限り進化はできない。だから、今シーズンも全力で頑張ってください」
これも「No Attack No Chance!」の精神そのものというべき回答ですね。
次の質問は、最近のスポーツ選手が試合前に「楽しんできます!」と語ることに軽い違和感を覚えているファンの方から。これに対して琢磨クンは「僕もスターティンググリッドで『楽しんできて!』と声を掛けることはあるけれど、それは緊張をほぐすのが目的」と回答。続けて「自分は、2位以下で走っているときは苦しくて、楽しさはまったくない。でも、僕たちはレースを好きで戦っているのだから、そのプロセスでは楽しいと思って欲しいし、その結果が楽しいものであったらいいと思う」と答えてくれたのです。
4番目の質問は女性から。「飯塚はるなさんに感動しました。今年のインディ500にくるでしょうか?」との問いかけに、琢磨クンは次のように答えました。「休み取って来いといえば来るかもしれません。そして油臭いメカニックという仕事に就こうとしているのは、女性の社会進出という面でも嬉しいこと。ただし、ホンダ学園の生徒さんにはメカニックになるだけでなく、ホンダの研究所に就職する道も開かれている。はるなは頭が良くてステキな女性。もしもインディ500にこられるようなら招待したい」
最後はインディ500でのハイブリッドシステムの使い方についてもう一度、質問が出ましたが、ここでも琢磨クンは、わずかな可能性、わずかな取り分のために懸命になって努力したことを説明。そして予選後には、「不可能を可能にした」ことについてHRC USのサルターズCEOも脱帽してくれたというエピソードが紹介されました。

こうしてイベントの本編は終了。これに続いて抽選会、記念撮影、そして琢磨クンとの2ショット撮影会&握手会(その合間には松本カメラマンのミニトークショーも!)などが開かれた今年のTCMを、皆さん楽しんでいただけたでしょうか? 私自身は、当日、参加できなかったことを深く後悔しておりますが、来年は「インディ500の3勝目!」を記念して大々的に開催されることを期待しておりますので、今年は参加できなかった皆さんも、どうかお楽しみに!

引き続き、みんなで琢磨クンを応援しましょう!!
















