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マシンがストレートに戻ってきた。トップはチームメイトのアンソニーだ。琢磨君は3番手でストレートを駆け抜けて行った。その時、モニターに警告が出た。それと同時に黒旗がコントロールタワーで用意されていた。なんとジャンプスタートの判定が下されてしまった。サイモンが(何故サイモン?)コントロールタワーに確認しに走っていく。ピットでのストップ&ゴーだと言う。ピットに緊張が走る。琢磨君がピットロードに入ってきてピット前でストップ。BOYOがタイヤにタッチしてマシンはピットを猛然と出て行く。しかしピットロード出口でまたオフィャルに止められてしまった。2度のストップ&ゴーだ。何故? すると今度はピットオフィシャルがなにやら文句を言ってきた。これにはみんなブチ切れた。オフィシャル数人と怒鳴り合いになった。相手はフランス語、こっちは英語。待ってましたとばかりに(実は自分、こういうの結構好きなんですよ)日本語も混じって、何の事か訳判らないけどとりあえず参加。いったい何の事やったんやろう? 少しするとタワーから正式通知をFIAの人間が持ってきて、トレバーがそれにサインをした。BOYOがマーシャルに一言「Do you understand!」と最後に一言。マーシャルは何も言わずに去って行った。いったいなんだったんだろう。気になる。しかしそれに参加するおいらってホンマ、アホ! もっと回りをよく見て行動しなければ。しかし2度のストップ&ゴーはいまだに納得出来ない。何で? どうしてなんだ? ホンマ頭くる出来事や!
しかしこんな事があったからと言って次のレースで琢磨君はどのようなスタートを決められるか。変に意識しては駄目だ。琢磨君のように鋭い剃刀のようなスタートを切るドライバーにとって、スタートはまさにぎりぎりの刃渡りのような、本当に危険と隣り合わせにいつもある。しかしこんな事があったからといって、それを安全な方に振っては何の意味も持たなくなってしまう。次こそ本当に強くなれる機会を与えてもらったと思う。次にいつも通りのスタートが切れた時に、また琢磨君は1つ強くなっていく。こういう出来事があったからこそ、次にもっと攻めて行かなければならないと思う。頑張れ! 琢磨君! 何があっても自分達は琢磨君を信じている。
などどえらそうな事を言っている割には、次にとんでもない事が起こってしまった。途中で信じられないような出来事が起こってしまった。なんとエンジンのエアボックスが、外れて飛んでいってしまったのだ。その為、琢磨君はレースをリタイヤと言う結果で終えてしまった。ゆっくりとピットに返ってきたマシンと琢磨君。自分達はただ呆然とマシンを見るしかなかった。
そのまま自分とJohnはマシンを押してオーニングに戻っていった。しばらく何も出来ずにマシンの横にへたり込んでしまった。 頭の中は空っぽで、何がどうしたのかまったく理解できない状況でマシンを見つめていると、サイモンが走ってきて、イギリス国旗を持って走って戻っていった。Johnが来て、アンソニーが優勝したから来い、と言ってコースの方に連れて行かれた。
ウイニングラップを終えたアンソニーのマシンは、スタートライン上でゆっくりと止まり、エンジニアのエイドリアンと抱き合って喜びを表していた。チームのみんなも大喜びで、アンソニーは得意げにユニオンジャックを両手で大きく広げ、頭の上にかざしていた。 確かにチームが勝って本当に嬉しいし、良かったと思う。しかし、自分は素直に喜べなかったのが本当の気持ちだ。みんなが喜ぶ中、なんか一人だけ孤独さを感じていた。喜べない自分が確かにそこにいた。本来ならあそこにいるのは琢磨君のはずであった。それが思いもよらない結果で幕を閉じた。本当に申し訳なくって申し訳なくって恥かしいかぎりだ。喜ぶチームメイトの中にあって、悲しさは倍増されていた。断っておくが、アンソニーの勝利は心からおめでとうと言いたいし、思っている。しかし、自分の心はここには無い。自分に対する責任がこみ上げてくるのを感じていた。しかしチームメイトの勝利。それも初のコース、そして公道レース。それだけではなくフランス、ドイツも相手にしての勝利だ。しかしその影には琢磨君の出した基本的なセッティングが大きく貢献した。それは間違い無い。チームの勝利。本当良かったと思う。自分も笑顔でアンソニーやメカニック達と握手して、静かにその場を去って行き、自分のマシンの所に戻っていき、マシンに謝り、汚れた体を綺麗に拭いて、しばらくの時間をマシンと二人で過ごした。
周りは何度も確認したし、仕方の無い事だと言う。リストリクターからバキュームした時も漏れは無かったという事は、緩んでいたという事は無いとも言う。しかし外れてしまった事は事実だ。なにか必ず原因があったからこそ外れたのだ。問題が必ずあるはずだ。回収したボックスのジビリクリップもしっかり締まったままだった。しかし、それなら外れる訳は無い。しかし外れた。必ず、必ず何か原因が必ずある。それを突き止めないと次にも起こる可能性が残ってしまう。はっきりと原因が追求できなくても、それ相応の対応は出来る。 締め付けトルクを上げるとか、新品のクリップにするとか、毎回必ずトルクチェックをするとか。しかし、そんな事では自分は納得できない。何が起こったのかはっきり知りたい。知らなければならないのだ。そうしないと次のステップを踏む事が出来ずに、自分の経験、糧として自分を成長させる事が出来ない。そして何よりも琢磨君に対して申し訳ない。ちゃんとしっかりと原因を説明して、それに対する対策を説明しないといけない。大事な事は、何が起こったか自分達は把握して、それに対する答えを持っている。したがってもう2度とこのような事は起こらないと説明しないといけない。そうでないとドライバーも限界の走りが出来なくなってしまう。その為にも、しっかりと原因を追求する義務が自分達にはあるのだ。自分達の為だけでなく、ドライバーの為にそれをしなくてはいけない。する事がメカニックの責任であって義務であるのだ。
いろいろ理由は考えられる。しかし今そんな事を言っても始まらない。外れた事は事実である。何を言っても外れてしまった事だけが本当の事である。何が起こったかというよりも、飛んで行ったのは自分達のマシンだけである。これが事実であり結果である。口で何を言っても、後悔しても始まらない。何の意味も持たない。そして終わった事を変えることも出来ない。前に進むしかないのだ。この出来事をしっかり胸に刻み付けて悔しさ、惨めさ、恥かしさを忘れる事無く、これをばねにして次に向かって行くしかないのだ。終わった事ををどうすることも出来ない。これを次に繋げて行くしかないのだ。事実を受け入れる事から次は始まっていく。そう、もう次の戦いは始まっているのだ。これを自分の経験としてhistoryとして立ち向かって行かなくては! 戦いは続くのだ!
飯田一寿
|
決勝 |
|
POS |
NO |
DRIVER |
NAT |
CAR |
TIME |
GAP |
1 |
01 |
Anthony Davidson |
GBR |
Dallara F301 Mugen-Honda |
43:38.295 |
|
2 |
07 |
Ryo Fukuda |
JPN |
Dallara F399 Renault Sodemo |
43:45.922 |
7.627 |
3 |
11 |
Bjorn Wirdheim |
SWE |
Prema Powerteam |
43:54.405 |
16.110 |
4 |
10 |
Kousuke Matsuura |
JPN |
Dallara F301 Opel Spiess |
43:57.223 |
18.928 |
5 |
03 |
Bruno Besson |
FRA |
Dallara F399 Renault Sodemo |
44:00.070 |
21.775 |
6 |
18 |
Toshihiro Kaneishi |
JPN |
Dallara F300 Opel Spiess |
44:04.556 |
26.261 |
7 |
31 |
Matteo Grassotto |
ITA |
Dallara F301 Opel Spiess |
44:07.569 |
29.274 |
8 |
04 |
Mathieu Zangarelli |
FRA |
Dallara F399 Renault Sodemo |
44:27.041 |
48.746 |
9 |
24 |
Kari Macupaa |
FIN |
Dallara F399 Opel Spiess |
44:36.790 |
58.495 |
10 |
20 |
Bernhard Auinger |
AUS |
Dallara F300 Opel Spiess |
44:37.109 |
58.814 |
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