予選が2回終わって再車検も2回終わって、しかしまだ今日の走行は終わっていないというのもなんか変な感じである。いつものように明日に向けたメンテナンスでは無く、この後に行われる決勝レースに向けての整備とセットアップだ。予選では昨日とマシンのバランスが変わってしまい苦戦を強いられたが、レースに向けてのデータは収集できた。かな? レース開始予定時刻はイギリスではまだまだ日の高い5:00となっている。それまでに何とかマシンを昨日のフィーリングに近付けなければ。しかしタイヤは2週間前のKnockhillの予選で使用した中古タイヤ。タイヤとは黒い生き物である。尚且つ1度皮をむいた物は劣化するのも早い。したがって今日使用するタイヤは今日のタイヤとはバランス、フィーリングはかなり違うものになっているはずや。そこをどのようにバランスさせるか。このタイヤが今日のレースを左右すると思う。いかにタイヤに合わせたマシンに仕上げられるか? それともいつものように琢磨君におんぶにだっこでお任せ? になるか。少しはドライバーの負担を減らさないと。 そして始まった2週間前のKnockhillの第2レース。グリッドは3番目。ポールはチームメイトのアンソニー。グリッドに並んでみると思った以上に悔しさが込み上げて来た。あそこは琢磨君がいるはずなのに。話は2週間前に遡る・・・もう遡らなくていいか。話をむしかえすのはよそう。この悔しさと失いそうな流れを繋ぎ止めておくにはこのレースで勝つしか方法は無い。勝ってポイント差を広げて明日のレースで決めなければ! その為にも何が何でも落せない一戦だ。自分達もこの一戦に予選とは違った手応えを感じている。琢磨君なら大丈夫。まったく心配していない。マシンもしっかりメンテナンスできているし。後はスタートを待つばかり。琢磨君はゆっくりマシンに乗り込み、Johnの合図でエンジンをスタートさせゆっくりグリッドに向かってピットを後にしていった。マシンがピットロードを抜けてコースインするのを確認して自分はいつものようにジャンプバッテリーを抱えてコースへと出て行った。いつもは誰も前にいないグリッド。しかし今日は目の前をマシンが塞いでいる。しかしこの屈辱はすぐに晴らされるはずや。レースが終わって最後に笑うのは琢磨君だと自分は確信している。ピットからグリッドに着くまでの短い1周の中で琢磨君は確実にマシンのセットアップの変更を感じて尚且つタイヤの磨耗状態を体で感じ取り、最終的な変更をグリッド上で行った。そうしていつものように我々も最後のチェックを行う。そしてスタート1分前のボードが提示されると同時にエンジンに火が入った。自分は琢磨君とゆっくりとしかし力強くガッチリと固い握手を交わしてコースを後にした。マシンはフォーメーションへと旅立っていき、コースを1LAPしてメインストレートへと戻ってきて各々のグリッドにゆっくりとマシンをストップさせた。隊列が整いタワーでは5秒前のボードが提示されマシンは一層その鼓動を甲高く轟かせている。赤シグナルが点灯してその赤が緑に変わった瞬間マシンは解き放たれた野獣のように飛び出していった。先頭はアンソニー、そして2番手はアンディ・プリオ、そして我がヒーローの琢磨君は珍しくスタートで予選通りのポジションで1コーナーをクリアしていった。そしてそのままの順位のままオープニングラップを帰ってきた。しかしこのまま引き下がる琢磨君ではない。1位アンソニーとの差はかなり開いてはいるがとりあえず前を行くアンディ・プリオを軽~くひねって後はアンソニーを追うばかりとなった。一時は3秒ほど広がってしまっていたアンソニーとの差もラップを重ねるごとにその差は見る見るうちに縮まっていきそしてついにアンソニーを射程距離に収めた。そしてアンソニーをロックオン! もう逃げられはしない。そしてついにブレーキング競争に競り勝ちトップに躍り出る。今度は追う立場から追われる立場に。しかしこうなった時の琢磨君はもうやんなるくらい速くて強い。この速さ、強さはもう嫌味としかいいようが無いくらいに強い。アンソニーを寄せ付けなく走行は続いていく。そして残り2周を残して大クラッシュが発生してレースは赤旗中断となりKnockhillの第2レースも勝利で終わった。今回のレースでは移り気な勝利の女神をガッチリと力ずくで振り向かせたレースであった。
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