いよいよコースインの時が来た。エンジンに火を入れてマシンをコースに送り出す。自分はマシンがピットロードからコースに確実に出て行くのを目で追い、確認してからバッテリと共にコースへと向かった。今回も1番前の特等席。すでに指定席と言っても過言ではないだろう。今回のDoningtonの予選はまさに琢磨君を引き立てる為に用意された感もあるくらいや。自分達はグリッドの1番前で琢磨君を待っている。琢磨君が最終コーナーから姿を現し、グリッドのマシンや人の波をゆっくり縫うようにポールのグリッドに向かってくる。途中Jaguarのマシンの所で止まった?ように見えた。しかしマシンはそのまま1番グリッドに。マシンはゆっくりとその場所に止まった。自分はプレッシャーを見ようとした所、何気なくフロントウイングを見ると・・・ん? なんか見た目がちょっと違うような気が? 琢磨君も無線でウイングのチェックをしてくれと言っている。な・な・な・何とフロントのメインウイングのセンター付近がバッコリとえぐれて穴が開いている。
なんじゃ、こりゃ!(松田優作風に) なんと信じられない事に、止まったように見えたJaguarの所で実はジャンプバッテリーをはねてしまったようだ。ピットからグリッドに着くまでにウイングを壊すなんて考えられなかった為、みんな最初何が起こったのか把握できずにポカ~ンとしていたけど、事実を理解してコース上でリペアを始めた。ノーズ交換すればいいけどピットからここまで持ってくるのには時間がかかり過ぎるし、幸い?ダメージは思ったほどひどくなかったので大急処置をグリッド上で行った。エッ、どうやって直したかって? そりゃもちろんレース屋さんに必要な、これさえあればマシンは何とかなるという、逆にこれが無いと仕事が出来ないとまで言い切ってしまうタイラップとガムテープ(イギリス風に言うとタンクテープ)、今回はタイラップは使用せず黒のタンクテープでの修理となった。まずはポッカリ開いた穴にタンクテープを小さく千切った物を詰め込んで、だいたい平らになったら上からテープで貼り付ける。2重3重に貼り付けたらもう大丈夫。これくらいの傷ならOK。そもそもウイングにクラックが入ったのではなくそこだけポッカリと小さな穴が開いてしまっただけなので強度的には今は問題ない。というか、現在はこれしか方法が無い。もちろんインターバルで修理か交換はするけどね。でもホンマ大丈夫。マジで。でもちょっとだけ焦った一瞬であった。それにしても恐るべきJaguarのジャンプバッテリーケース。後で見せてもらったらウイングはダメージあったけどバッテリーケースはちょっと傷がついただけで何にも壊れていなかった。Jaguar恐るべし!
そして自分達はいつものようにホイルのトルク確認とタイヤのプレッシャーのチェック、そしてタイヤに付いた小石やゴミを取り除いて表面に傷等無いかチェックして後はエンジンスタートを待つばかり。
目前にはただコースが広がっている。視界をさえぎる物は何も無い。後ろを見るとポールポジションに従うかのごとく全てのF-3がひれ伏しているかのようだ。これが王者の貫禄ってやつかな。
マシンはフォーメーションへと走り出し、一周してグリッドにゆっくりと止まる。いよいよスタートの時は来た。シグナルが変わると同時に1台だけ、そう琢磨君のマシンだけ一足早く飛び出した。言っとくけど決してジャンプスタートや無いからね。それだけいつも通りの完璧なスタートをきったって事やね。オープニングラップを予定通りトップで帰ってきた。しかし思ったよりも2位のアンソニーとの差は大きく開いていない。なんと最終コーナーでそのアンソニーと接触! しかし、2台はダメージを負うことなく、 3位以下を少しずつ引き離していく。琢磨君とアンソニーの2台だけ絡まるようにして周回を続ける。しかし6LAP目にアンソニーはブレーキトラブルの為、コースに留まる事が出来ずにコースオフしてしまう。しかし琢磨君のペースも明らかにおかしい。琢磨君から無線で連絡が入った。左リヤタイヤのスローパンクチャー。ピットが急に慌ただしくなった。スペアタイヤを用意してタイヤ交換のフォーメーションを決めている・・・って、そんなの直前に打ち合わせするのではなくもっとレース前のミーティングで行っていなければならない。それを確認するのならまだしも・・・しかし今はそんな事を言っている場合ではない。自分はサインエリアでサインボードを出しながら周回数を確認する。残りは6LAPだ。何とかもってくれ。しかしコース上では約3秒あった差は見る見るうちに無くなり琢磨君のすぐ背後に後続のマシンが迫ってきた。それを必死で抑える琢磨君。左リヤがパンクしているという事はマシンは左後ろに重心が下がってしまい、右フロントの過重も減ってしまう。当然の事だがマシンの操縦性はまったく操縦不可能になってしまうし、ブレーキングでも信じられないような不安定な挙動になってしまう。しかしそれを必死で操る琢磨君。もはやすでにこの芸当は人間業では無い。この時自分の脳裏には89年の全日本F3000菅生での和田選手の走行とダブって見えてしまった。あの時はトップを本当にブッチギッていて2位以下を周回遅れにする勢いでの走りだったが、最終コーナーで周回遅れのマシンを抜く際にそのマシンが進路を急激に変えた為、そのマシンと接触、マシンは同じ左リヤのサスペンションを折ってしまった。しかしマシンはそのまま3輪で走り続けた。コーナーではタイヤがプラプラする様子がモニターに映し出されていた。そして後2LAPの所で折れたサスペンションがブレーキホースを切ってしまい3輪走行だけでなくブレーキも無いまま走り、しかし何とか0.3秒差で優勝した時の事を思い出していた。しかし今回もそれに負けずとも劣らない必死の走行である。
頑張れ琢磨君! 自分達は祈るような気持ちで1LAP、そしてまた1LAPと、ただホームストレートを暴れるマシンを必死で押さえつける琢磨君を見守るしか無かった。あの状態で走る事自体信じられないのに、その上トップを死守しているのだからまさに神業としか言い様が無い。しかしついにその糸はプツンと切れてしまった。残り3周を残して最終コーナーを立ち上がってきたのは琢磨君ではなかった。琢磨君は6位で戻ってきた。そして次の周はもっと順位を落として・・・それでも必死でゴールを目指す琢磨君。もう見ていられなくなった。琢磨君の気持ちを考えると悲しくてつらくって。しかし琢磨君はまだ戦っている。レースは終わっていはいないのだ。ゴールはもうすぐだ! 頑張れ! 琢磨君!
結局最終的には12位でレースを終えた。パルクフェルメに帰ってきてマシンをその場所へゆっくりと停める。左リヤタイヤは当然その役割をまったく果たしていない。そして右フロントはその為に浮き上がる形となり、ブレーキングでは簡単にロックしてしまっていた為、フラットスポットを通り越しタイヤの構造が剥き出しの状態。しかもバースト寸前の状態だった。本当にこの状態で走り切った事自体物凄い事である。しかし事実は残酷な物である。タイヤスローパンクチャーによって12位と言うリザルトしか残らない。
琢磨君のその悔しさと怒りを思うと何も声をかけられない。その時点ではアンソニーとの接触によってのパンクかと思われたがAVONによってタイヤを調べた結果、接触による物ではなくトレッド面に深い傷があり、何か異物を拾った事でのパンクと判明した。
そして話は少し変わるが、アンソニーとの接触についてチームオーダーとか何とか言う人がいたが、それはまったくナンセンスである。これはレースであり競争である。相手が誰であれ、前を行くマシンがあればそれを全力で抜く事をするのが当然である。チームメイトだろうが誰だろうがそんな事は関係ない。相手を押し退けてでも前に出るのがレースである。アンソニーの取った行動は正しいと自分は思う。それが結果として接触と言う形になったにしても、それはただのレーシングアクシデントでしかない。それがたまたま同じチームに在籍しているドライバーだったに過ぎない。これは何の問題も無い事である。良くあるレースでの1シーンに過ぎないのだ。
普通ならそのアンソニーにぶつけられる所にはいないはずだったが、今回はたまたま琢磨君がその時すでにパンクチャーに襲われていてペースを上げられなかったのだ。
そう、パンクチャーはその接触の時にはすでにタイヤを蝕んでいたのだ。なぜこれほどまでに不運が襲うのだろうか。しかし考えてみると実力のある者ほど必ずいろいろな試練がある。何もなくトントン拍子で行く者ほど後になりその実力が無かった事によりその存在を無くしている物である。そう、これは未来の為の試練なのだ。きっと先々の何かのためにそういう結果になったんだと思う。きっと将来の何かのために今こういう状態にあるのだろう。まあ当分は悔しい想いが渦巻いてるけれども、そんなこんなを乗り越えていくしかないし、きっと乗り越えられる筈である。いや、乗り越えなければいけないのである。ただの1レースが終わっただけで何も終わってはいないのだ。今日もあと1レース残っている。ここで落ち込んでなんかいられない。次に向けてマシンを修理、完璧にリペアして完全なる状態で次のレースに臨まなければいけない。第2レースまでに琢磨君も気持ちの切り替えをするはずだ。自分達はそれに確実に答えるようにしなければならない。大丈夫。まだ何も終わってはいないのだから!

第1レース決勝
POS NO DRIVER NAT TEAM CAR TIME
1 08 Gianmaria Bruni ITA Fortec Renault Dallara F301 Renault Sodemo 22:43.500
2 03 Andre Lotterer GER Jaguar Racing F3 Dallara F301 Mugen-Honda 22:44.943
3 01 Derek Hayes GBR Manor Motorsport Dallara F301 Mugen-Honda 22:45.823
4 02 Jeffrey Jones USA Manor Motorsport Dallara F301 Mugen-Honda 22:47.348
5 21 Mark Taylor GBR Manor Motorsport Dallara F301 Mugen-Honda 22:49.374
6 27 Jamie Spence GBR Duma Racing Ltd Dallara F301 Mugen-Honda 22:51.149
7 28 Ryan Dalziel GBR Duma Racing Ltd Dallara F301 Mugen-Honda 22:52.132
8 18 Andy Priaulx GBR Alan Docking Racing Dallara F301 Mugen-Honda 22:52.682
9 17 Paul Edwards USA Alan Docking Racing Dallara F301 Mugen-Honda 22:53.219
10 12 Atsushi Katsumata JPN Promatecme UK Dallara F301 Mugen-Honda 22:54.132
11 11 Bruce Jouanny FRA Promatecme UK Dallara F301 Mugen-Honda 22:58.417
12 06 Takuma Sato JPN Carlin Motorsport Dallara F301 Mugen-Honda 23:01.920
13 55 Michael Keohane IRL Meritus Racing Dallara F398 Toyota 23:05.659
14 52 Robbie Kerr GBR Fred Goddard Racing Dallara F398 Renault Sodemo 23:05.932
15 58 Matthew Gilmore GBR Performance Racing Dallara F398 Opel Spiess 23:09.824
Fastest Lap Anthony Davidson 1:29.661
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