時間は少しずつ、しかし確実に過ぎていく。長いと思われていた走行時間がだんだんと迫ってきた。そして予選開始直前に雨が降ってきた。最初はF-1の2回目のプラクティスが終わる直前からまさにスコールのような雨が降り出た。そしてしばらくして、一時は晴れたけどお約束のようにF-3の予選開始直前に、また雨が急に雨が降ってきた。そしてその雨は激しくなり、見る見るうちにコースを水浸しにしていった。当然セッティング変更を行う。しかしエンジニアのBoyoはその雨の中セッティングにまだ悩んでいた。雨は止むとか晴れるとか言っている。しかし今日は気温もかなり低いし、このトラックをドライセッティングで行っても、仮に雨は止んだとしても完璧なトラックコンディションには絶対戻らない。そもそも今の状況では、雨セットと言うよりも走行が出来るかどうかの激しい雨やないか。雨、雨。絶対雨しかないって。雨で行こうよ。ネッ、Boyoちゃん。そして今日は予選が25分と比較的長いセッションとなっているので、とにかく雨セットで行き、もし仮にコンデションが回復したら、そこからドライに戻せばいい話や。その位パーンとやったるで~! 任しとき! おかげさまで間違いを犯す事無く、無事に?雨セットからホンの少しだけドライに近いセッティングでの走行となった。しかし、まだセッティング変更をしている時にも、ちょっと待ったコールが何度も入り、ドタバタに拍車がかかっていた。一度交換した部分が終了したのを確認したかのようにタイミングよく「やっぱりこっちにして。」とか2度手間、3度手間と・・・もうきっちりと早く終わらそ! 時間はすぐそこなんやし。
そんな中でもおいら達は今回も?今回は?ミスを犯す事無く無事に、本当、無事に終了した。よかった。しっかりと間に合って。しかも雨は琢磨君大得意。こりゃブッチギリのポールしかないでしょう! レインダンスを見せてやれ!
そしてその雨足は弱まる事無く、ますますその激しさを増していき、いよいよF-3のコースインの時間となった。しかし今回はF-3のパドックがかなりホームストレートから離れた所にある。そしてマシンはそこからのコースインとなる。という事は、マシンがコースインする所はホームストレートからかなり離れた場所からのスタート。あたりまえや。その為、スタートした後に、遥か彼方に見えるピットロードまで自分達は走る走る。全ての関係者がまるでホノルルマラソンのように一丸となって手段でウォ~ッ! と言う感じでその集団は移動していく。空から見たら面白い風景やったろうな。しかもここでもF-1パドックのセキュリティは高く、ここからはパスがないと入れません、とか平気で言いやがる。アホか! こっちはすでにマシンはコースを走っているっちゅーねん。集団はまた叫びながら進路を変えての大移動。みんな怒りながら叫んでいる。まったくや。自分も怒鳴ろうとしたけど、悲しいことにすでに体力は無く、声を出すだけの力は残っていなかった。Johnがバッテリーを持ってやるって言ってくれたけど、これは自分の仕事やし、自分の責任で持っていくと変な意地を出してしまい、断った。Johnは「ホンマか? ほな先に言ってるから。」と自分を置いて先に行ってしまった。ホンマ、久し振りにこんなに走った。マジで倒れるかと思ったくらいや。雨のせいで全ては濡れて重くなり、走りにくくなっているし・・・もうすぐ、もうちょっとでピットに辿り着ける。自分達の場所はBARのピット前やった。現在マクラーレンのピット前。もうすぐBARのピットや。あそこに見えてきた。あと少し。もうちょっと。頑張れ! 自分が到着するとすでに何台かのマシンはピットロードに待機していたけど、そこにはまだメカニック等関係者の姿はまだ見られなかった。きっとまだ後ろの集団の中で必死に走って向かっている最中だろう。なんかオーガナイゼーションがまったくアホや。どないせいっちゅーねん! 何人かは「さすがはSilverstoneや。」と吐き捨てるように言っていた。息を切らしてぜいぜい言いながら。何人かどこかで倒れているんやないか? それにゲーゲー吐いているとか・・・幸運にも今日はいなかったけど。しかし今日が雨の中でのランニングでよかったのか晴天の暑い日でなくて良かったのか分らないけど、確実に言える事はこの走行後、またあの長い距離を走って帰らなければならないという事と、日曜日決勝日には必ずこの試練が待っているという事だけは確実な事やね。体力持つかな~・・・心配や。マジで。
そしてそのまま肩で息をしながらバッテリーを置いてサインガードに行く。すでにマシンは数ラップした後だった。サインボードに残り時間と現在のポジション、トップとのタイム差を表示しようとモニターを確認しに行くと、モニターは作動しておらず(全て)タイムも残り時間も順位も何も出ない。みんなパニックをおこしている。ストップウォッチをかき集めて・・・何も無い。自分はとりあえず自分用の1つしか持っておらず、ドライバーのタイムしか計れない。誰がトップ? うちはどのポジションにいるの? 残り時間はどうしよう? そうこうしているのをよそに、ホームストレートではマシンが水煙を上げて疾走している。そして赤旗が提示される。マシンはピットに入ってくるが、そのまま終了になるのか、残りどのくらいの時間で開始されるのか等何のアナウンスも無い。
しかし、この頃から天候は急変して、雨はやみ太陽が出て来た。こうなると予選は今まで誰がトップなのか分らないけど、とりあえずコース状況は良くなってくるので振り出しに戻ったようなものやね。予選再開後が本当の勝負になると見た我々チームは、コンディションに合わせたセッティング変更を行う。そうしているとピットロード出口ではグリーンフラッグが振られてセッション再開。しかし、残り時間は何分で行われるの? とにかく琢磨君はその限られた状況の中タイムを縮めている・・・はずや。手元のストップウォッチのタイムは確実に早くなっている。ただ他のドライバーのタイムが分らない。しかし何の心配も無い。きっと、いや、必ずトップは琢磨君に違いない。確信にも似た自信が自分にはあった。自分は安心してリラックスして琢磨君の走りを見ていられる。
そうしているうちにコースではチェッカーフラッグが振られいた。予選終了。
琢磨君はどうなのだろう? マシンはそのまま車検場に向かっていった。それを自分達は追いかけていくが、またしてもその距離は遥か遠い。自分達が到着した時には、すでに再車検はオフィシャルによって全て終了した後だった。琢磨君は何処に行った?
リザルトを確認すると・・・ほ~ら、思った通り。琢磨君は予定通りポール獲得だった。しかも2位とのタイム差は1.108秒のブッチギリのタイム差。さすがレインマイスター。雨が降ったときの走りは劇的や。ここでもF-1関係者の驚く顔が目に浮かぶようや。まっ、自分としたら当然過ぎるほど当然の結果で、何も驚いてはいないけれどもね。だって普通に走ればこれくらいのことは当然なんやから。しかしそれにしても結果は嬉しいポールポジション獲得。この調子で日曜日のレースもブッチギリで行きましょうか!
そしてマシンをオーニングに引き上げて、決勝に向けてマシンのチェックとメンテナンスを行っていると・・・すでに裏ではBBQの用意をみんな始めている。先にマシンをしっかりと仕上げようよ。しかしご安心を。琢磨君のマシンは自分とJohnの二人でしっかりとマシンを仕上げているから!

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